旧約聖書・新約聖書を通じて登場する女性たちを主人公として、その生き様と背景を解説しながら、人間観・人間像を深めてゆくことを目指した聖書解読の本です。
本書の冒頭にもあるように、本書はフェミニスト神学の影響を受けてはいますが、それだけではなく近代以降の聖書学の知見にも基づいています。そのため(日本人にとっては)新しい聖書の読み方が次々と紹介されますが、それらの読み方は私たちにより深い聖書理解・人間理解に導いてくれます。
例えば、あまり注目されることのない旧約聖書の女性たちが、圧倒的な男性優位社会という、非常に困難な状況の中で、いかにしたたかに生きたか。それぞれの物語の中で、脇役として片付けられがちな女性たちを主人公として、かのじょたちの視点から見て、聖書はどう読み、解釈できるのかという新しい景色を示してくれます。
また、伝統的な(キリスト教会によって不当に歪められたイメージを与えられた)新約聖書の女性たち、例えばマルタとマリアの姉妹、あるいはイエスの足を涙で拭った「罪の女」などの人々の受け止め方を、「なるほど!」と一新してくれます。それは同時に、キリスト教会がいかに長い間、女性に不当でネガティヴなレッテルを貼ってきたのかを明らかにすることでもあります。
そして最終的に本書は、マグダラのマリアの分析を通して、私たちのキリスト教信仰の根本部分、つまりイエス・キリストをどう信じるのかに切り込んで行きます。さらには、イエスの「バシレイア(神の統治/神の国)運動」の本質とは何か。それがどのようにイエスの死後も展開していったのか。明快に頭の中を整理し、改めて私たち自身の信仰を見つめ直させてくれます。
このように、新しい聖書学や女性神学などの成果を踏まえた上で、親しみやすく読みやすくわかりやすく、しかも女性の視点からの聖書解釈という視点を開いてくれる本は、なかなか見つけるのが難しいのではないでしょうか。
女性の視点から聖書を読み直すだけでなく、ここを入り口にして女性神学、クィア神学に歩みを進めるための入門書として読むこともできます。
体裁や編集に関して言えば、個々の女性たちを手頃な長さの章で順番に扱ってゆくので、とても読みやすいです。また、教会や学校での学習会などで使うのにも、とても便利でしょう。また、本文は読みやすい一方で、巻末の注も充実していますので、もっと学びたいなと思う人には、大変役に立ちます。
著者の福島裕子さんの今後の活躍、また図書出版へウレーカという出版社が今後どのような本を世に問うてくるのかも、とても楽しみにしてくれる、そんな本でした。
この本、とてもオススメです。
(2020年12月4日(火)記)
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