浦河教会と「べてるの家」といえば、全国にその名を知られた、精神障害(主に統合失調症)の「当事者研究」の発祥の地であり、向谷地生良さんといえば、その分野での一種のカリスマ化された人という印象です。
2020年はその「べてる」グループの問題点が大々的に報道された年であり、手放しで「べてる」を褒め称えることは危険であるという認識が広がりました。
けれどもこの本は、キリスト教会という場所で、精神障害者が居場所を求めて来た時、どう受け止めればいいのか、どんな考え方をして、どんな対応をすればいいのか、という趣旨の本です。
その趣旨に沿って寄せられた、個別具体的な問い合わせに答えて、向谷地さんが臨機応変の答えを展開してゆく、その発想や視点がとても興味深く、よい学びになります。
たとえば、「弱さの情報共有」「な・つ・ひ・さ・お」のバロメーター(悩み・疲れ・暇・寂しさ・お腹、お金、お薬)、「症状がなくなることと回復することの違い」など、独特の価値観と、それを表す独特の言葉が、精神障害と共に生きるため、またそうでない場合でも、単にクリスチャンとして生きるための生き方のヒントを示してくれます。
「言葉」というものをいかに使いこなすのか、現象に自分なりの言葉を与えてゆくこと自体も、苦悩や困難とうまくやっていくには大切なことだということもわかります。
個人的には、終盤に「病気を持つ当事者が、牧師や社会福祉士、精神保健福祉士などの資格を取って『ピア・スペシャリスト』として教会や精神保健福祉の現場に入ってゆくこと」を奨励している内容に非常に共感を覚えました。
浦河教会や「べてる」での向谷地さんの経験をベースにした本ですが、この本は元々クリスチャン新聞に連載されたものに加筆修正されて出版されたものなので、さほど「べてべて」してないテイストです。べてるの個性的な面よりも、一般化されやすい内容を中心にまとめた本で、きっとその方が読みやすいという方もいらっしゃると思います。
というわけで、この本、オススメします。
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